町の総合戦略を「農業と教育の先進地」と謳っている佐賀県三養基郡上峰町。2014年に中学校で、2015年には小学校でオンライン英会話を授業中に導入するなど、全国に先駆けた取り組みが注目を集めています。同町立上峰小学校でのICTの効果、生徒の反応、そしてオンライン英会話導入までのハードルや今後のヒントを上峰町教育委員会ご担当者に伺いました。
ICT活用で実現する“5年先取り施策”
上峰町教育委員会 教育長の矢動丸壽之様(以下矢動丸教育長):2015年に国の施策として地方創生先行型交付金事業があり、上峰町も交付対象団体として認定されました。町としては理念を「みんなでつくる元気創造拠点・上峰」と銘打って、具体的施策として「教育」に力を入れようと決めました。その時ちょうど佐賀県がICTの推進を図っていたこともあり、教育分野でのICTを基盤にした人づくりを行おうと考えたわけです。
まずは上峰中学校の1年生に対して、数学の教科に特化したマンツーマン(1対1)のオンライン個別補充学習を進めました。アンケートを行ったところ、95%が「よくわかった」「わかった」と答え、かなり好評だったので、小学生にもオンラインで、しかもマンツーマンで英語をできないか?と考えました。授業中にできるところもあるのではないかと、早速全国に公募を行いました。
国の動きでは2020年を目途としていますが、上峰町では5年先取りをして、語学力をつけた子供たちへと育てていくことに重点を置くことにしました。グローバル化への対応ということなんです。
でも、私個人の意見としては、同時に国語力も伸ばしたいと考えています。
本当のグローバル人材とは「日本を知る人」
結局、国語力や日本に対する知識がないと本当の意味のグローバル人材は育たないし、英語も伸びないと考えています。
次回の学習指導要領改訂でも、日本人としてのアイデンティティを育てるということを重視していて、上峰町では、地域の皆様からのご支援やご指導を頂きながら、地元とのふれあいを体験させるべく、小学生や中学生は積極的にフィールドワークに出ています。
オンライン英会話導入最大のハードルはアクセス回線
矢動丸教育長:導入に際して、正直なところアクセスの難しさには直面しました。機械だから思い通りにいかないじゃないですか。レアジョブという会社そのものというより、インターネット回線がうまくいくだろうかと。レアジョブの営業の杉山さんに何度も来てもらって、手直しをして、回線を引き直して…
事務局長兼教育課長 吉田淳様:回線を引いてくれる業者さんも、電気屋さんより少し知識がある程度の方だったりもするので、わからないことも多いんですよね。家庭では1対1ですが、学校だと30~40人がいっぺんに回線に入ってくるので、そういうところがやってみて初めてわかるところでした。
「2020年の5年先取りをしよう」町長との約束
矢動丸教育長:教育委員会の目標は「会話の絶対量を増やす」ということでした。まずは自信をつけて、外国人に対しての壁を低くするということが先決です。これについては、期末のアンケートでも「一人で外国人と英語で話せる」という子が23%から73%に増加するなど、確実に結果が出ました。
もう一つの目標としては、中学校に行った時に初めて英語を習い、読み書きする、ということではなく、小学校の時から英語に触れさせて関心を持たせ、授業として習う英語にスムーズに移行できるよう誘導して行こうと考えていました。
2020年の5年先取りをしよう、というのが町長との約束だったんです。
その意味でも、アンケートで96%の生徒が「外国の人が話していることを、少しでも理解することができる」と答えおり、成功していると実感しています。
当初、まずは4人のグループで1~2回やって、徐々に一人でレッスンをできるようにしようか、なんていう話しもあったのですが、それではいつまでたっても上達しない。とにかく一人でやらせてみよう!となったんです。講師が英語しか話せない状態で、最初は子どもたちも戸惑っていました。戸惑っていたけれども、何とか一人でやって、それを最初は担任の先生やALTの先生、教育委員会のスタッフがフォローしてやりました。
上峰町立上峰小学校 教頭 野中康枝様:そうですね。あと、教材も一つの手助けになりました。レッスンで使う内容を生徒たちは事前にALTの先生から教えてもらうのですが、もし生徒側にワークシートがなければ難しかったと思います。事前に教わっても、やっぱり難しいんですよね。手元にワークシートがあって、穴埋め形式になっているので、かっこの部分を変えればなんとか通じることがわかって、生徒たちも安心していました。そして、もし穴埋めができなくても先生が笑顔で返してくださるので、子供たちも安心してレッスンを受けていました。
話さざるを得ない1vs1の世界
授業での子どもたちの様子を、6年生の担任である上峰小学校 尾籠義幸先生にお聞きしました。
尾籠義幸先生:今まで週1回の外国語活動授業は担任とALTだけでした。それが2015年から6年生で授業にオンライン英会話を導入、2016年からは5年生、6年生に拡大しました。子どもたちは、自分の言ったことが通じると、「通じた!」と興味関心がとても高いですね。
1回目の体験で、不安というよりも通じた!楽しかった!という子どもが多かったです。ALTだと1vs30で時には隠れている子もいます。それがオンラインだと1vs1だから、絶対に話さなければならない。だから、ALTが行うオンラインレッスンの事前授業では、みんな一生懸命ノートをとっています。子どもたちの中に「なんとかしゃべらないかん」という気持ちがあるのだと思います。
オンラインレッスンがある時間は、全45分間の前半でALTの先生による授業を実施します。オンラインレッスンに繋がる内容でゲームをしながら言葉を教えてくれる。例えば、カードを使って国の名前をあてるゲームを楽しみながら、子どもたちは国名を覚えます。ゲームをクリアしないとオンラインレッスンがわからない。授業の後半の15分間でオンラインレッスンが実施されます。このように、ALTによるインプットとオンラインレッスンによるアウトプットを繋げています。
英語教育をすすめるにあたり、教員にも時間が必要
現状では英語の研修に割く時間もなく、ALTとの授業を通して「そうだった」と思い出すこともあります。私たち教員も英語に対して教材研究を進め日常の教育活動で英語教育に対し楽しさを子ども達に教えていきたいと思います。
——ありがとうございました。
「ICTの活用」と一括りに言っても、方法は多岐にわたります。放課後の補助学習、授業中の調べもの、発表のツール、そしてオンライン英会話。ICTの力が、子ども達の未来に進む力を少しでも手助けできればと願ってやみません。