2021.04.23

オンライン英会話を授業で活用するなら、校内・保護者に「まず知ってもらう」ステップが大事

宮澤 敦さん (芝中学校・芝高等学校)
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2019年度より、高校1年生の英語の授業にオンライン英会話レッスンを導入している芝中学校・芝高等学校。年間20回、Z会ソリューションズ社が販売する教科書『NEW TREASURE』に準拠した専用教材『NEW TREASURE Online Speaking』を使って英会話練習に取り組んでいます。

「4技能は英語の得意・不得意に関わらず、全員が身に付けないといけない。得意な生徒を伸ばすだけではなく、学年全体をボトムアップしてくことが大事」そう話してくださったのは、英語科の宮澤 敦先生です。

とはいえ、オンライン英会話の授業内導入にいたるまでには、先生方への協力体制の構築、費用・環境面など、さまざまな壁を、一つひとつクリアをしていかなければなりません。

今回はさまざまな課題をどのように解決し、導入を進めてきたのか、当時を振り返り具体的な取り組みについてお伺いしました。

教科書準拠だからこその強み。学習内容との関連性があるから実践までがスムーズに

2016年度より『NEW TREASURE』を採用し、4技能への対応を強化した同校。従来重視していた文法、読解、リスニングに加え、アウトプット強化のための暗唱テスト、英作文などカリキュラムの充実をはかります。

宮澤先生「暗唱テストだけだと、中学生にとってはモチベーションが上がらないのが課題でした。新しい大学入試のために4技能が大事とはいえ、生徒にとってはまだ遠い未来の話。また英会話の授業はALTが担当しているのですが、日本人が行う授業と内容の関連性をもたせるために、都度調整をしなければならず大変でした」

そのような試行錯誤の中、『NEW TREASURE』で学習した内容を基に会話練習ができる『NEW TREASURE Online Speaking』の存在を知り、2016年から英語科内で導入に向けた検討がはじまります。

英語科内から学内、そして校外へ。サービスを理解し、実際に体験してもらうことが重要

宮澤先生「わたしは最初から授業内で全員が受講することに意味があると思っていたんです。新しい大学入試への対策は全員必要だから、学年全体を底上げしていく仕組みをつくらないと意味がない。それを実現するのは授業内で実施をすることがいちばん。オンライン英会話を希望者向けのプログラムにして、英語が得意な子だけを伸ばしてゆく、というのは、ボトムアップにはならない」

宮澤先生「検討をはじめた当初、課題は山積みでした。保護者への費用負担、MM(マルチ・メディア)教室の設備など、さまざまです。英語科は16名ほどいたのですが、『ALTを増やした方がいいのでは』『フィリピン人との会話で練習になるのか』といった率直な意見も出ましたね。でも、議論がなかなか進まない中である先生が言ってくれたんです。『まずは少しずつ導入して、どんなサービスか知ってもらうのが大事なんじゃないか』って」

この先生のひとことがきっかけで、2017年度には夏期講習として、高校2年生の希望者向けに初のオンライン英会話の導入が実現します。約80名の生徒が受講し、運営はオンライン英会話の導入を推進する一部の先生方で行いました。

宮澤先生「目的はまず、英語科の先生方に知ってもらうことだったので、ほかの先生方には『講座期間中にぜひレッスン見学に来てください』とお伝えしました。結果、多くの先生方が見にきてくださり、生徒が想像以上に楽しく生き生きと会話をしている様子を見て、少しずつオンライン英会話へ理解が進んだ実感がありました。生徒にも非常に好評でしたね」

さらに2学期の放課後には、希望者向けの講座を新しく開講。そこで英語科の先生方にも運営に関わっていただくための工夫を行います。

宮澤先生「放課後の講座をやろう、という話になったとき、夏期講習で生徒から好評だった実績から肯定的な意見が多かったです。関わる先生方が、生徒が楽しんでいる様子を実際に見る、というステップがとても大切だと感じますね」

宮澤先生「ただ、放課後に実施をするとなると、英語科の先生方には運営として関わっていただく必要がある。現場での監督、準備や片付けなど煩雑なことも多いので、監督表を作って、最低でも一人月に数回は運営に関わってもらう仕組みをつくりました。最初はトラブルが起こったら…‥とドキドキしている先生もいらっしゃいましたが、実際にやってみることで、理解も深まりましたし、関わることへのハードルも徐々に下がってきたようです」

英語科の先生方と協力体制ができてきたところで、今度は学校全体や管理職の先生方に理解をいただく場をつくりました。

宮澤先生「導入して2年目には軌道にのってきたので、校内で取り組みを知ってもらうために、職員会議で周知をしました。また『英語科通信』を他教科の先生方にも配布し、英語の学び方や大学入試が今後どのように変わっていくのか、説明をしましたね。結果的に、校長先生や他教科担当の先生方、入試広報担当の先生が見にきてくださって、学校全体にオンライン英会話を知ってもらえました。翌年の2019年度より授業内での導入を目指していたので、管理職を説得するわけなのですが、事前理解があったので比較的スムーズでした」

しかしながら、授業内でのオンライン英会話導入にあたり、保護者からの反対はなかったのでしょうか。

宮澤先生「なかったですね。当校に通う生徒たちの保護者は、新しい大学入試のために4技能対策が必要だという認識がありましたし、必要性は感じていたと思います。加えて、先述の『英語科通信』を保護者にも配布して、オンライン英会話への理解を深めていただくなどの工夫にも取り組みました。導入検討当初は『授業料とは別に、オンライン英会話レッスンの費用が発生するのは負担が大きいのではないか』という英語科の意見もあったので、校内・保護者にきちんとサービスへの理解をいただくのは、とても大事なステップでした」

大学受験だけがゴールじゃない。本質的・実践的な英語力を身に付けさせることが大事

授業内での導入も2年目となった2020年度。2016年度より取り組んできた新カリキュラムの成果が出てきているようです。

宮澤先生「中学生のときから英作文、音読とアウトプットに注力し、総合的に4技能を強化した上で、高校1年生で実践の場としてオンライン英会話がある、という流れはよかったと思います。生徒もアウトプットに順応してきたようです。たとえば、海外研修に行くための事前面接があるのですが、面接を担当した先生方から『英語の質問にたいし、生徒がよく話すようになった』という感想を聞くようになりました」

宮澤先生「また、ある予備校主催の模試の結果においても、比較的よい結果が出ています。授業内で扱う文法解説や読解の割合は相対的に減っているにも関わらず、点数は落ちていない。4技能をはかる外部認定試験においては、歴代でいちばんよい結果です。大学入試で中心となる文法・読解はもちろん大事ですが、音読や英会話に時間を割くと模試の点数に影響が出るのでは……と心配している先生がいたら大丈夫ですよ、とお伝えしたいです」

導入当初は新しい大学入試への対策を目的として開始したオンライン英会話でしたが、肝心の新センター試験の導入は延期に……。

宮澤先生「もう、どんでん返しですよね(笑)もちろん、英語科内で今後オンライン英会話を続けるかは議題になりました。そのとき、ある先生が『英語はもともと4技能が必要だし、オンライン英会話は大学入試のためだけにやっているわけじゃない。本来の目的として必要なんだから、このまま続けていいんじゃないか』とおっしゃったのが印象的でした。つまり、学校の教育は大学入試のためにやっているわけじゃない、と。本質的ですよね」

少しずつ実績を積み重ね、関わる人たちとの協力体制をつくってきたことで、先生方の意識にも変化が生まれています。「大学受験だけではない、本質的な英語力を身に付けてほしい」という先生方の想いが少しずつ、生徒たちに伝わっているようです。

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