英語でも関西弁でも、稲垣さんはとにかく早口です。めちゃくちゃ喋ります。「話すのが好き、人を笑わせるのが好き」という気持ちの強さが、言葉数に表れるタイプ。そして、その“喋り”でお客様の心をつかむ法人営業担当でもあります。
そんな稲垣さんは、2020年6月に突如「YouTuber・がきお」になりました。自身の留学時代や海外就業経験での苦労話と成功談、英語学習のTipsなどを発信しています。つらいと感じがちな英語学習を、楽しみながら続ける工夫。そして、その先に待っている“英語が伝わる楽しさ”を発信するがきおの姿を、英語学習者と同じ目線で届けていくために。笑顔と明るさの内側をひもといてみると、海外への志向や並外れた行動力の源泉が浮かび上がってきました。
海外の刺激に心躍らせた少年時代
受験失敗で寿司職人へ!?
関西弁の「チョケる」には、「ちょっとふざける」「他の人を笑わせる」といった意味があります。幼い頃の稲垣さんは、いつも“チョケてる”子どもでした。
「人と話すのが好きで、おもしろいことをするのが好き。今も、本質的にその性格は変わっていないですね。同じく、海外が好きなのも子どもの頃から同じ。親類がアメリカにいて、帰国するたびに会っていたんです。おみやげをもらったり話を聞いたり、日本とは全然違う海外の雰囲気や文化を知れるのは、僕にとって非常に刺激的でした」
「中学2年の夏休みは、飛行機でひとりアメリカへ!約半月の滞在中、ゴールデンゲートブリッジをランニングしたり、ラスベガスに連れて行ってもらったり、とにかく楽しかった。もちろん当時は英語で話せなかったんですが、目に映る世界のあらゆるものが刺激であふれていました。今思えば、この経験が海外志向の原体験だったのかもしれません」
その後、高校に進学して大学を受験するも、希望は叶わず浪人することに。
ところが1年後、またしても志望大学に不合格という結果が待っていたのです。
「『受験なんてもうやめて、世界一周旅行に行ったろかな』と、本気で思いました。母親には『カリフォルニアのおじさんの元で寿司職人を目指したら?』と言われて(笑)結果的には追加合格で大学進学が決まって上京しました」
胸にひそむ漠然とした海外への憧れが、やがて明確なかたちを持つまでにそれほど長くはかかりませんでした。
途上国×英語に魅せられ、フィリピン留学を決意
大学ではアジアの開発経済学を専攻し、東南アジア研究会にも所属。留学生とディスカッションする学内のフォーラムにも積極的に参加していた稲垣さん。
次第に“途上国×英語”という志向を自覚していくようになります。
「東南アジア研究会の活動の一環で、フィリピン・ケソンの巨大なゴミ山のふもとにある小学校のサポートを行っていたんです。パアララン・パンタオ(思いやりの学校)と言うんですが、学びを深めるとともに親近感も生まれ、自分で行ってみよう!と決意。大学4年生になるタイミングで休学し、フィリピン大学へ留学したんです」
ところが、現地で待っていたのは想像以上に過酷な現実でした。
「大学の授業はもちろん英語。でも全然ついていけず…。また、ゆくゆくは海外で働きたいと思いTOEICも勉強していたんですが、そのスコアも伸びず。せっかくフィリピンに渡ったのに、キツい現実を突きつけられました」
「でも、帰国するという選択肢はなかったです。何も得ていない、何も実績を残していないのに、まだ日本には帰れない、と。『全然なんにもやりきってへんやん』と自分に言い聞かせ、やれること、やるべきことにシフトしました」
確かに、TOEICのスコアは、英語力を定量的に示すうえで有効な方法のひとつです。だけど、それがすべてではない。TOEICスコア以外でも自分の実績を示せる手立てはないか…と稲垣さんは考えました。
そしてなんと、大学に通うのをやめて、現地で就職先を探すことしたのです。
「就業の実績づくりのためだったので、有名企業・自立生活できるサラリー・All Englishという3つを企業探しの軸に据えました。最初はフィリピン大学の掲示板で求人を探していたんですが、その後はジョブサイトに登録して必死に仕事を探しました。結局3カ月くらいでしょうか。大学に通わなくなると学生向けの住居を追い出されてしまうんですけど、なんとか退去寸前に就職先が決まりました」
もちろんこのときは知りませんが、フィリピン大学の掲示板で職探し…というのは、実はレアジョブが最初に講師獲得のために行ったのと同じ手法。
時期も目的も違えども、まだ出会ってはいなかったけれども、レアジョブとの縁を感じさせるエピソードになりました。
フィリピンから帰国、そしてYouTuberになるまで
がんばりが実り、晴れてIBM Global Process Servicesに入社が決定した稲垣さん。働き口が決まったとはいえ、大学生が外国で就業するのがたやすいわけがありません。「フィリピンで働いていた約1年半、ずーっとハード。ずーっとしんどかった」と、稲垣さんは率直な本音で振り返ります。
「新入社員研修の話はもちろん全部英語で2%くらいしか理解できなかったし、入社時に40枚くらいの英文ドキュメントを渡され、20~30分後には全部読んでサインしろって言われたんです。当時の僕の英語力では、到底ムリな話。『こんなん、1週間あっても読まれへんわ』『どうにかなる!』と心のなかで祈りながらほぼ何も読まずにサインしました(笑)
IBMで働いていた当時は、とにかくがむしゃらに英語でのやり取りと目の前の仕事に体当たりで乗り切っていた、という感じです。後から振り返ると、英語力が上達したのはIBM時代を過ごしたからだと思っています。知人から『英語うまくなったね』と言われることもありましたし。でも、働いていたさなかには、その実感が追いついてこなかったですね」
手探りでもがきながらも、自分の志は貫きたい。
その想いを原動力に仕事に励んだ日々を経て、2012年の春、稲垣さんは帰国しました。
厳しかったとはいえ、フィリピンでの就業経験は稲垣さんのビジョンをより明確にする機会にもなりました。
たとえば、営業という職種に醍醐味や親和性を実感したのは、ある人との出会いから。稲垣さんはフィリピンで日本人駐在員や現地法人社員で構成するラグビーチームに所属しており、そこで憧れのセールスパーソンに出会ったのです。
「日本人なんですが、英語も現地語も使いこなしてぐいぐい営業していく人だったんです。現地法人の駐在員からも絶大な信頼があり、とにかく人としての魅力がすごかった。語学力、交渉力、相手を惹き込む力、信頼される力、それにもちろん営業として成果も出せる。『ビジネスパーソンとしていろんなスキルを伸ばせるのは営業や!』と感じ、その先の働き方を決める指針になりました」
「あと、やっぱり途上国に貢献したいとの想いは強まりましたね。実際にフィリピンに渡って生活したことで良くも悪くもさまざまな側面を目の当たりにし、これはなんとかしなあかんな、と感じました。やっぱり“途上国×英語”は、ぶれることのない自分の軸なんだと思います」
英語、営業、途上国、フィリピン…これらのキーワードの延長線上で、やがて稲垣さんはレアジョブと出会うことになります。
「きっかけは、フィリピンにいた頃に出会った水島君。フィリピンのカガヤン・デ・オロでグループ会社を立ち上げることになった彼が、僕を紹介してくれたんです。当時のスクール営業部のトップ2名に会って話をした際、彼らの教育にかける情熱に感動して、入社を決めました」
当時、稲垣さんはDole Japanで小売店にバナナを販売する営業担当でした。
一見すると学校営業とは畑違いのようですが「相手のふところに入り込んで心をつかみ、信頼関係を構築しながら提案するところがフィットするな、と思いました。オンライン英会話という新たなサービスを普及させるうえで、彼の素直さやひとなつっこさは強い武器になると感じたんです」と、稲垣さんに教育への熱意を語った株式会社エンビジョンCOO・杉山さんは当時を振り返ります。
現在は法人営業部に在籍し、企業向けの英語研修提案に励む日々。
その取り組みのひとつとして気軽に始めたはずのYouTubeが、期せずしてまったく新しいチャレンジとなったのです。
僕の英語は完璧じゃない。
でも、臆せずトライした先にある“世界の広がり”を体当たりで伝えたい
英語学習に関する情報やTipsを扱うYouTubeチャンネル【がきおと英語と〇〇と】で、稲垣さんはYouTuber・がきおという個人の活動として定期的に動画を配信しています。
教育のプロでもないし英語のプロでもない稲垣さんが、YouTubeで発信する強みとはいったいどんなものなのでしょうか?
「僕の英語、全然パーフェクトじゃないんです。正直、文法は高校生レベルすら危ういかもしれない(笑)でも、僕はフィリピンで仕事をしていたし、今でも海外の知人と英語でコミュニケーションできます。ネイティブみたいに流暢じゃなくても、コミュニケーションはできるものなんですよね」
「文法然り発音然り、たぶん誰にでも苦手な部分ってあります。でもその事実を自分で受け入れて、それでも精一杯英語で話してみようとチャレンジしている人のがんばる姿勢を、相手はちゃんと受け止めてくれると思うんです。外国の人が片言でもがんばって日本語を話そうとする姿を恥ずかしいなんて思わないし、言いたいことを汲んであげようと感じるのと同じかな、と」
「また、僕は営業なので“話して何かを伝える”というのは、YouTubeでも生かせる強みだと思っています。フィリピンでの就業も含め、実体験をベースに英語学習の工夫やリアルなTipsを紹介できるし。別にネイティブみたいに流暢な英語じゃなくても大丈夫だよ、ビビらず英語を話してみて伝わったとき世界広がるで!ということを伝えたくてがんばっています!」
英語学習は難しい。成果が出るまで自力でがんばるのは、特に難しい。
それは、稲垣さん自身がフィリピンで体感したまぎれもない事実です。
一方で、海外への留学や現地での就業を通して知った喜びや楽しさ、活躍のチャンスを得られたきっかけもまた、英語でした。
海外への憧れ、コミュニケーションの喜びとともにあった英語。YouTubeを通じて英語が伝わる楽しさを発信する取り組みは、稲垣さんにとって必然の使命だったのかもしれません。
失敗しても、あきらめない。
行動で未来を切り拓いていくのみ!
「人生振り返ってみたら、ちょいちょい何かにつまずいてる」と言う稲垣さん。
でも、やってみる前に失敗することをおそれない。たとえ失敗しても、簡単にはあきらめない。
そんな一面がうかがえるエピソードがありました。
「IBMで働いていた頃、将来どうしようか悩んでいた時期があったんです。それで、経営陣のひとりに直接チャットを送り、1on1の面談をお願いしました。アルゼンチン人とフィリピンで英語面談するっていう不思議なシチュエーション(笑)今思えば無謀なお願いをしたものだと思いますが、何か得られるものがあるはずだ!と、猪突猛進で当たりに行きました」
「あと、途上国に貢献したい気持ちが高まりすぎて、レアジョブに入社する前に行きたい会社があったんです。入社選考を受けたものの通らず、でもあきらめきれなくて、同社の営業トップの講演会に神戸から東京まで行き、楽屋まで乗り込んで『働きたいんだ!』と伝えに行きました。社長の講演会でも同じことをして、名刺交換してもらったな…結局は願い叶わず、だから僕は今レアジョブにいるわけですが(笑)でも、1回うまくいかなかったからって、それであきらめたくはない性格なんですよね」
失敗しても、あきらめない。
言葉にするのはたやすくとも、その姿勢を行動で表す難しさは誰もが知っていることでしょう。
どんなハードルにもめげることなく、難局もチャンスと捉えるスタンスを貫いてきた稲垣さんの歩みが、今、そして未来を紡いでいるのです。
「海外で働きたい気持ちは、今も変わらないです。むしろ、今だからこそまた挑戦したい。IBMで働いていた頃は、ビジネスパーソンとしてスキルも経験も未熟でした。Doleやレアジョブでの経験を経た今の自分だったら、どんな成果を出せるのか。チャレンジしたい想いがありますね。もちろん今でも足りないスキルがたくさんあるので、チャンスがあればすぐにつかめるように、目の前のことに全力で励みたいと思います」
尽きぬチャレンジ精神と行動力の先にあるチャンスを、その手でつかむために。
~YouTubeチャンネル【がきおと英語と〇〇と】は、こちらから~