2018.04.11

教師が楽しく授業をすれば生徒は英語を嫌いにならない

英語との衝撃の出会いから、ICTフル活用の授業を行うまで

アクティブラーニング・ICT推進リーダー 兼 日本アクティブ・ラーニング学会理事 唐澤 博さん (浦和実業学園高等学校)
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浦和実業学園高等学校は、1946年に設立された私塾を前身とする私立の高等学校です。現在の生徒数は、浦和実業学園中学校からの内部進学者を合わせて約2,500人。設立当初は商業高校でしたが、1974年には普通科も設置され、現在は国公立や難関私立を目指す「普通科特進コース」など7つのコースが設置されています。

この日は日本アクティブ・ラーニング学会理事であり、同校のアクティブラーニング・ICT推進リーダーを務める英語科の唐澤博先生にお話をお聞きしました。ICTを、「I=いつでも、C=ちょっと、T=使える」と定義する唐澤先生が推進する、浦和実業学園高校の英語教育、先生ご自身の英語との出会いなどについて伺いました。

ハワイ島に研修施設
在学中に全生徒が短期留学

うちの学校にはかなり昔から「ハイスクールライフ」っていう、生徒と教員の交流システムがあるんです。生徒が勉強や部活のこと、悩みなどを毎日ノートに書いて提出し、担任がコメントを書いて返却するという、言わば交換日記のようなものなのですが、これはまさに生徒一人一人の学校生活の記録そのもの。紙ベースではありますが、「eポートフォリオ」に通じるものですよね。こういう先進的な取り組みを意識的に推進しています。

2年次には全員が、ハワイ州ヒロ市のユナイテッド・ハワイ・カレッジ(UHC)で、約2週間の短期留学に参加します。これは、英会話授業や現地の人との交流を通して、コミュニケーション能力の向上、異文化理解、社会性や協調性の習得を目指すものです。また、このプログラムではドミトリーで友人達と共同で生活をします。朝食と夕食は各班で自炊。食料の買い出しから調理、後片付けまで自分達で行います。

中には英語が得意な生徒もいるし、不得意な生徒もいる。でも現地ではグループで行動し、食事はすべて自炊をするので、近くのお店に買い物に行って、英語を話さないとならないわけです。この「現地の人と英語で話をする」という経験が、生徒を成長させるんですね。もちろん数週間の短期留学でいきなり英語が話せるようにはなりませんが、気持ちが大きく変わる。学校で習った文法のルールをすべて守れていなくても案外通じるものだな、とか、地元の人もそんなにきちんとした英語を話していないぞ、とか、実際に話してみて分かることって多いんですよ。

卒業時に生徒に聞くと、ほぼ全員が「ハワイ研修は楽しかった」って答えます。また、ハワイ研修の影響なのか、成績は良くなくても英語は「好き」と答える生徒も多い。研修中はハワイ大学の学生や現地採用の先生が来てくれて、10人位の少人数で勉強させているんですが、先生が「今日は出かけよう」なんて言って、ファーマーズマーケットに連れていったり、公園に行ってフリスビーをしたりするんです。

全員参加のハワイ研修以外にも、ハワイ島ヒロ市にあるセントジョセフ中学・高校と姉妹校関係を結んでおり、短期・長期の留学を行っています。こういう中で英語を話せばそりゃ楽しいし、「英語が通じるって、何て面白いんだろう」ってなりますよ。オンライン英会話はとても勉強になるのですが、肩をたたき合ったり、抱き合ったりっていう、体感的なものはこういう場でこそ得られる体験ですよね。ハワイ研修は、生徒にとってとても貴重な場だと思っています。

衝撃を受けた「クイーン」
「ペーパーバック」との出会い

私は長野県出身で、外国人なんてまったくいない地域で育ちました。中学生のとき、都会の学校から転校してきた女の子に「『キラー・クイーン』って知ってる?」って聞かれて、「何それ?」って。当時人気のあったイギリスのロックバンド、クイーンの曲だというので聞いてみたら、ものすごいインパクトがあった。それからはラジオから流れてくる洋楽をよく聞くようになり、もちろん歌詞の意味なんて分かりませんでしたが、何となく「英語ってかっこいい」と思うようになりました。

当時の英語の授業は、先生が言った教科書の文章をそのまま覚えて、書き取りをやって終わりという時代。それもあって、私はあまり英語について勉強熱心ではなくて、高校1年生か2年生のとき、先生に呼び出されたことがあったんです。そこで「ちょっとここで待ってろ」って言われて、職員室の先生の机の上を見たら、質の悪そうな紙で出来た分厚い本が目に留まりました。いわゆるペーパーバックです。「何だ、これは?」と手に取って開いてみたら、一発であの独特の匂いに惹かれました。このときの出会いは、衝撃と言ってもいいほど。以来、英語の本をたくさん読むようになり、大学も外国語学部英語学科に進みました。

教師がどこかで手を離せば
自発的に学ぶようになる


浦和実業学園高等学校に赴任した当初は、私も今のような感じではなくて、受験指導を中心に行っていました。受験のための知識をいかに簡単に要領よく教えるか、ということに腐心していたんですね。卒業生と会うと「あの時の先生の分詞構文の教え方、まだ覚えています」なんて言ってもらうのですが、今にして思えばあの教育はあまり良いものではなかったんじゃないか、と。もちろんあの頃はいい大学に入って、いい会社に入って、出世して……という時代でしたし、彼らはそういう勉強をしたからこそ希望の大学に進み、今の地位を築いた。それはそれでいいんです。でも教育としてはどうだったのか、と思いますね。

英語に限らず、授業で大切なのは生徒の心を「つかんで離さず、その気にさせる」ことだというのが、私の持論です。そこまで持って行けば、生徒は自分から能動的に学ぶlearner autonomyが身に付きます。中には「最後まで面倒みる」「自分の中の知識をすべて生徒に与えたい」という先生もいるかもしれませんが、これは違うと思いますね。やはり教える側は、どこかで手を離さないと。そうしないと生徒の中から自発的な学びは生まれません。

大切なのは教師が楽しく授業をすること!

英語は一度嫌いになってしまうと、生徒の気持はなかなか戻りません。嫌いにさせないためには、例えばハワイ研修のような「英語が通じた」という成功体験を積み重ねることも重要ですが、一番いいのは「先生が楽しそうに授業をやること」ではないかと、今は思うんです。

7年程前から、1時間目開始前の20分間を利用して、英語のニュース記事を使った授業を行っているのですが、これも私が楽しくて続けているようなもの。年間で100回実施します。


英語のニュース記事を使った授業で使用しているプリント

まず、表側に写真が、裏側にその写真に関連した30~40語程度のニュース記事が印刷してあるプリントを生徒に渡します。次に生徒は写真を見て、そこから思いつく単語やフレーズを書き出すんです。それが何の写真か分からなくても、とにかく何か考え、書く。最後に、裏側の記事を読んで、その文章を写真の下に書き写す、というのが一連の流れです。

写真を見て、書きたいことはあるんだけど、英語が分からないという状態で裏側を読めば、「なるほど、この単語を使うのか!」となるでしょう? これがいいんです。こうやって覚えた単語は、単語集で断片として暗記した単語よりずっと記憶に残りやすい。この授業は大学入試向けのものではないし、学科の制限もないから、色々な生徒が来ますよ。1カ月、半年、1年と続けるうちに、生徒は自分の興味のある時事問題にも出会えるし、英語で話せる話題もためることができる。シーズンごとのイベントに関するニュースなどはよく取り上げるので、生徒が「やっぱり今日はこのトピックか!」なんて言ってくると、「お、来たな」って、嬉しくなるんです。

全国で開催中!英語教育の情報交換のためのネットワーク 通称「達セミ」


英語教育の方法について悩んでいる先生もいるかと思います。そんな方には谷口幸夫先生(現・東京都立小平高等学校)の主催する「英語教育・達人セミナー」、通称「達セミ」が役に立ちますよ。今年でもう23年目になる、自発的かつボランティアで運営されている教員向けセミナーです。私も登壇させていただいているのですが、日本中の小・中・高・大・塾などの、英語教育に携わるあらゆる先生方のpedagogicalな授業実践を体験的に学べます

全国津々浦々、毎週末開催されていますので、近くで開催しているようであればぜひ気軽に参加してみてください。公式HPはないので、開催情報はメルマガに登録すると取得できます。参加が難しい方は、ジャパンライム社さんの協力で、オンラインやDVDで実際の授業やワークショップを見ることができるようになったので、参考にしてもらえると嬉しいです。

ICT活用でも英語の授業でも、効果や結果というエビデンスを求められることが多いのですが、現場ならではの様々な事情があり、理想通りのレッスンは難しいものです。情報のインプットとして理論本や実践の本をたくさん読むのもよいのですが、まずは「つべこべいわずに、やってみよう」という気持ちを持ってみましょう。

 

『ライブ!英語教育・達人セミナー in 未来の先生展2017』(ジャパンライム社)
http://www.japanlaim.co.jp/fs/jplm/c/gr1899
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「英語教育・達人セミナー ~英語教育の達人を目指して~」
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浦和実業学園高等学校の唐澤 博先生が上梓された、英語×デジタル教材のノウハウ満載の本
「英語デジタル教材作成・活用ガイド」(株式会社大修館書店)
https://www.taishukan.co.jp/book/b197170.html
※上記からサンプルデータを無料でダウンロードが可能

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