「日本にいるから、英語を話す機会に恵まれない……」。決してそんなことはありません。日本にいるからこそ、英語で日本のことを発信できるという強みがあるのです。自分の今いる状況はすぐには変えられなくても、英語に対する態度は変えられます。「日本にいるから、英語がかえって強みになっている」という編集者の黒坂真由子さんに、お話を伺いました。
日本にいて、日本のことを伝える
先日、海外で仕事をしているビジネスパーソンの方にこんな質問をされました。
「せっかく英語を勉強しているのに、海外に住みたいとは思わないのですか?」
その時の自分の答えが「日本って、本当にいい国ですからね」というもので、このとっさの返答に、我ながらちょっと驚きました。
毎日レアジョブ英会話で英語を学び、英語関連の書籍を手がける仕事をしていますから、もちろん「海外に行って、思う存分英語を使いたい」という気持ちがゼロ、というわけではありません。しかし、その思いは以前と比べて随分と変わってきたように感じます。それは「日本にいても、かなり英語を使える」と感じるようになったからです。また、今自分が夢中になっている事から考えると、むしろ日本にいた方が、英語を生かせる状況にあるのではないかと思うようになりました。
現在私が夢中になっているもの。その一つは和楽器です。東京に出てくる前に田舎で吹いていた篠笛を再開し、阿波踊りの連(チーム)に所属して、日々練習をしています。英語とかけ離れた趣味ですが、こういった話題は外国の方にとても喜ばれます。レアジョブの先生の前で吹いたことも何度もありますし、お祭りに参加したいという方や、和楽器を演奏したいという方も多いですから、英語を使う機会も自ずと増えていきます。最近では、所属する「粋輦」のホームページの英語サイトで、英語で阿波踊りについて発信をしています。なぜなら、毎年行われる高円寺のお祭りには、たくさんの外国人観光客が訪れるのに、英語の情報があまりないからです。また、各チームからメンバーを集めて海外遠征が組まれることもあり、もはや地域の祭りという枠を超えた活動が行われています。
「粋輦」の活動(写真提供@Yanagihashi)
これは何も阿波踊りだけのことではありません。娘が所属する合気道の会にも、稽古をしている外国人はたくさんいます。年に1回武道館で開催される大会には、世界各国から参加者が集まります。
ただ自分の好きな日本のお稽古事をしていたら、英語に触れる機会が増えてきた。私と同じような経験をしている方も、もしかすると多いかもしれません。
もう一つは和服です。私は埼玉県にある川越という古い街で育ち、近所に住む叔母は着物で生活をしていました。叔母の家に遊びに行くと、叔母は子どもの私に着物の話をたくさんしてくれました。浴衣に秋の花の模様が多いのはなぜか。紺色が多いのはなぜか。そんな叔母の話が大好きでしたし、着付けを教えてくれたのも叔母でした。最近は着る人が減っているためか「着物が好き」という話をしていると、方々から着物を譲ってもらえるようになりました。この頂いた着物が役に立つ機会が、ちょうど昨年の春にありました。
知り合いの娘さんであるジョーダンという女の子が日本旅行をするという連絡が入り、突如、我が家でホームステイをすることになったのです。一部屋用意することができなかったので、ベッドは「長女の二段ベッドの下」という理想的とはほど遠い環境でしたが、この狭さがより親密感を生んでくれたようです。3人の子どもたちはすぐに懐いて、一緒にご飯をつくったり、手遊びをしたりしていました。キッズのオンライン英会話を続けていたおかげか、話せなくてもリスニングはなんとかなったようで、私とジョーダンの話を横で聞きつつ「今、私のこと話していたでしょう!」と娘たちに言われたりもしました。
「着物を着たい」というジョーダンに、ちょうど知人から譲ってもらった半幅帯と着物を着付けました。ただ着ただけではつまらないですから、一緒に近所の天ぷら屋さんに行って食事もしました。ジョーダンが何度も“I feel so pretty!”と言って喜んでくれたのが印象的でした。
話が広がるきっかけは、伝統文化だけではない
話が広がるきっかけは、何も伝統文化だけではありません。
中学生の長女は、20代の女の子に「ガチャガチャ」のアニメのキャラについて質問されたと話していました。自分もそのアニメが好きだったので、キャラクターについて片言の英語で説明し、”I like me too!”と言って話が盛り上がったとか。英語として完璧ではありませんが、相手の質問に答え、会話を楽しむきっかけとなったのなら、目的は達成できたことになります。アニメなどの文化を求めて、日本を訪れる人もたくさんいます。いわゆる伝統文化にこだわることはなく、もしかすると自分がはまっていることが、外国人が知りたがっていることかもしれないのです。
話のきっかけは、そこかしこに
文化にこだわらなくても、英語を話すチャンスはたくさんあります。
東京に住んでいると、駅や街中で困っている外国人をよくみかけます。しかし、声をかける勇気というのは、なかなか出てこないものです。そんな自分や、私と似たような経験をしたことがある人が、最初の一言を言えるようになるための本をつくりたいと思い、先日新しい本をネイティブ著者のカリン・シールズさんとともに出版しました。
『日本で外国人を見かけたら使いたい英語フレーズ3000』(クロスメディア・ランゲージ)
これは日本で困っている外国人や、日本をもっと知りたいと思っている旅行者に、声をかけ、日本を紹介するためのフレーズ集です。英語をいくら勉強していても、見知らぬ人に英語でいきなり声をかけるのは、勇気がいります。相手が本当に英語を話す国の人かもわかりませんし、断られることもあるからです(私もつい先日断られました)。もちろん、それで傷つく必要はありません。相手だって、声をかけられて迷惑なのではなく、ただ本当に助けがいらないだけなのですから。
あまり深く考えたり、悩んだりせず、まず一言”Do you need any help?”「お手伝いしましょうか?」と声をかけてみれば、自分の周りには英語を話す機会が実はとても多かったことに、驚かれるかもしれません。もし、英語にちょっと自信がないならば、話せるのは少しだけ、と前もって相手に伝えておいてもいいですね。そんな時には、I can speak some English.と言えばOKです。
日本で働いていたり、子どもがいたりすると、簡単に海外に行くことはできません。しかし日本にいながらも、英語を話す機会はちょっと勇気を出せばつくることができます。英語を勉強して海外に出る人もたくさんいますが、英語を勉強しているからこそ日本にいて、困っている人を助けたり、日本のことを外国人に伝えたりするのも、なかなか素敵なことなのではないか、と感じています。
黒坂真由子さんプロフィール
中央大学在学中の1年間、アメリカに留学し、小学校にて日本文化を教えるプログラムを担当。その後、出版社にて英語学習などの編集に携わる。2009年、企画・編集・ライティングを行うCONTENTS(コンテンツ)を立ち上げる。担当する『英語手帳』(IBCパブリッシング)は、累計30万部以上。カリン・シールズ氏との共著に、レアジョブ英会話のユーザー2500名の声を参考にオンライン英会話で使うフレーズを多数収録した『オンライン英会話すぐに使えるフレーズ800』(DHC)、日本のあらゆる場所で困っている外国の方に声をかけるフレーズが満載の『日本で外国人を見かけたら使いたい英語フレーズ3000』(クロスメディア・ランゲージ)、英語好きな子を育てるハウツー本、『子供を「英語でほめて」育てよう』(日本実業出版社)など多数執筆。