これまで“グローバルで活躍する”と言えば「海外出張が多い」「駐在員として海外現地法人に赴任する」といったイメージが一般的でした。しかし、労働人口減少による外国人採用の増加、国境を超えたテレワークの普及が進み、必ずしも働く場所が海外でなくともグローバル志向が求められるようになりつつあります。
HENNGE株式会社では、2016年に社内公用語を英語化。日本の事業所でも外国人スタッフ比率が非常に高く、まさしく日本にあるグローバル企業の1社と言えます。執行役員の汾陽さんと株式会社レアジョブのCSO(Chief Strategy Officer)坪内が、グローバルで活躍できる人材やその資質について意見を交わしました。
グローバル人材として必要なのは、チャレンジを楽しめるマインド
レアジョブ 坪内(以下、坪内)
さっそくですが、汾陽さんは“グローバルで活躍できる人材”にはどんな資質が必要だと思われますか?
HENNGE 執行役員 汾陽(以下、汾陽)
個人的には、チャレンジへの興味や好奇心が非常に重要だと考えています。変化に臆しない心、とでも言うのでしょうか。何のためにチャレンジするのか、チャレンジして何を成し遂げたいのか…という目的は大切ですが、それ以前に“チャレンジそのものを楽しいと思えるマインド”が必要ではないかと。
坪内
確かに、プロセスを楽しめるマインドがあれば、チャレンジにも前向きに取り組めますよね。グローバルでビジネスを展開するとなると、さまざまな面で初めての試みや未知の決断を求められますから。
一方で、そのマインドはどのようにして身につけるのが良いのでしょうか。
汾陽
たとえば学生時代、部活に打ち込んだ経験を通して挑戦の楽しさを知った…など、きっかけは人それぞれだと思います。でも、海外留学などは大きな転機になりますよね。異なる環境で生活するとなると、生活の端々で驚きや戸惑いに直面しますから。いわば、小さなチャレンジを必然的に乗り越えていかざるを得ない状況に身を置くことが、人を強くしてくれるはずです。
坪内
確かに、単一国家の日本では “異”を経験しないまま成長してしまうんですよね。日本人だけの教室で、日本語のテキストを使い、日本語で授業を受ける。日本語のテストを受験して、就職した企業でも大多数が日本人。環境変化に対応する必要がないというか、前提条件が崩れることを想定しません。
私自身がヨーロッパで生活したことで体感したことですが、ヨーロッパでは通学先や勤務先が隣の国だなんてことも一般的です。
汾陽
だからこそ、共通言語としての英語が重要なコミュニケーションツールになるわけですね。
坪内
とはいえ、英語が話せればそれですべての問題をクリアできるわけでもない。
汾陽
その通りです。もちろん、英語力が高ければアドバンテージにはなるでしょう。だけど“英語力が高ければグローバルで活躍できる”という発想は、短絡的すぎる。そもそもビジネスシーンでは多くの場合、流暢さよりも誤解なくコミュニケーションを取れる方が重要です。ゆっくりとでも正確に英語を話すノンネイティブスピーカーの方が、意図や思考が適正に伝わり、ビジネスが有利に進むこともあるかもしれません。
坪内
汾陽さんご自身の経験で、そういったことを感じられたことはありますか?
汾陽
自分の原体験は、最初の海外出張ですね。シンガポールのカンファレンスへ参加したんですが、当時はオンライン英会話のレッスンを始めて1年足らずの頃。TOEIC L&Rのスコアが550点といったレベルでした。日本でホテルを予約する段階から「こんなに物価が高いの!?」と焦ったのを覚えています。現地でも初めてSinglishや中国語アクセントの英語プレゼンを聞くなど、驚きの連続でした。
坪内
まさしく、百聞は一見に如かずですね。
汾陽
なかでも印象的だったのは、マイクロソフト社の担当者とのミーティングです。当社事業のプレゼンは同行したスタッフが行ってくれたのですが、販売戦略やビジネスモデルに対して質問されると細かなニュアンスを伝えきるのが難しくて。
逆に、システム関連の用語は私でも聞き取れるので、ホワイトボードに図を描きながら私が説明しました。英語はおぼつかないながらも意思疎通はできたので、ミーティングの本来の目的は果たすことができたんです。流暢に話せるわけではないし、自分の言いたいことを十分に伝えるには、まだまだ英語学習を続けなければいけない。そう実感すると同時に、ビジネスにおける本質は必ずしも英語力の高さではないのだ、と感じる機会にもなりました。
大切なのは違いを受け入れること
まずは外の世界に目を向けて
坪内
ビジネスのグローバル化が進む一方で、それに対応しうる人材の確保が大きな課題として顕在化し始めています。外国人労働者を積極的に受け入れるというよりは、働く国として日本を選んでいただく…という発想への変化が必要になっていきますね。
汾陽
そうですよね。来日して働くからといって、外国人スタッフを“日本人化”させることが本質ではありません。たとえ日本に拠点がある日本企業であっても、世界に目を向け、世界中の人たちとともに働く意識に変化させることが大切だと思います。
そもそも、坪内さんがおっしゃられていた通り、純然たる日本生まれ日本育ちの人たちにとって、環境変化や異文化の価値観を受け入れるのは、必ずしもたやすいことではないと思います。しかし、日本以外の国では言語も文化も宗教も人それぞれの違いがあることを前提とし、違いを知るところからすべては始まっていきます。日本企業で外国人スタッフを受け入れる場合にも、そのスタンスは最初にして最も重要な部分だと感じています。
坪内
なるほど。実際にHENNGEでは社内公用語を英語化し、大勢の外国人スタッフの方が働かれています。その実現までにはどのような工夫をされたのですか?
汾陽
率直に言うと、いずれも制度や環境などを変えることで外側から固めていった…という感じでしょうか。2014年に「3年後には社内公用語の英語化」と宣言してからは、まずは経営陣から率先して英語学習を始めました。実際に始めてみると競争意欲が生まれ、おのずと英語化への気運が高まっていきました。その姿を見せることが、社員に対しても最も説得力のある働きかけにもなったと思います。
同時に、外国人のインターン受け入れなども並行してどんどん進めていきました。さまざまな国からやってきた外国人スタッフと一緒に働いてみれば、彼らに日本式を押しつけようとしても意味がないことは明らかにわかります。この点でも、やはり環境が意識や行動に及ぼす影響は大きいと感じましたね。
坪内
汾陽さんのお話をうかがっていると、外国人だけでなく女性役員の登用なども同様の発想が必要なのではないかと感じました。特に欧米では、女性役員の比率を企業のダイバーシティ推進の指標とすることも当然になってきています。これも、ただ女性役員を登用すればいいという話でもないし、日本人化した外国人ではないですが、男性社会を勝ち抜いてきた男性的発想の女性を増やすというのも本質ではありませんね。
汾陽
国籍や性別、世代によって違いがあるのは当たり前なんですよ。だから求めるべきは同質化ではなく、違いがあることを前提として受け入れられる発想。意識や行動をどれかのタイプの枠にムリしてはめ込んでも意味はないんです。むしろ、違い=多様性と見方を変えれば、グローバルに事業を展開したり、活躍できる人材を育てたりしていく推進力になると思います。
坪内
素朴な話ですが、知らなかったことを知るのって楽しくないですか?
汾陽
そう思います。以前「レアジョブ英会話」のレッスンを受講していて気づいたんですが、私が「電車通勤をしている」と言ったとき、先生はその文章の意味はわかっても、そこから先のイメージが広がらなかったんです。なぜなら、その先生は電車に乗ったことがなかったから。こんな些細なやり取りからでも日本とフィリピンの交通事情や通勤の概念がまったく違うことがわかるし、だから通勤の話をしていてもしっくりこなかったのかという納得感がありました。
坪内
一つひとつは些細なことでも、それを積み重ねていくなかで、違いを受け入れていく意識や姿勢が培われていくのかもしれませんね。
多様性を受け入れる環境が、グローバルに活躍できる人材を育む
坪内
やはり、企業のグローバル展開を推進し、活躍していける人材には多様性が不可欠ということですね。そしてその第一歩とは、実際に海外の国へ行ったり外国人とコミュニケーションしたりして、違いを知ることから始まるのではないか、と。
汾陽
さらに言うと、グローバルに活躍できる人材というのは“世界全体の良い部分を吸収し、変化し続けられる人材”だと思うんです。特にビジネスの観点で言えば、求められるスキルや発想が変わりつづけて然るべきですから。
坪内
そうですね。そして、環境が人の意識や行動をかたちづくるのだとすれば、そういった人材は、多様性を受け入れる組織からしか生まれ得ないのではないかと思います。逆に言えば、組織として多様性を受け入れる土壌が根付かせられれば、グローバルで活躍できる人材を育むことにもつながっていくのでしょう。
汾陽
もちろん、日本には日本の良さがあります。多様性を受け入れるうえで大切なことですが、否定からは何も始まりません。日本の良さを大切にしつつ、世界の国々の良さにも目を向け、積極的に打って出ていくことが望まれる時代になっているわけですね。
坪内
本日はありがとうございました。
汾陽 祥太氏
HENNGE株式会社 執行役員 Englishnization Evangelist
1978年京都府出身。2000年、株式会社HDE(現・HENNGE)に入社。多様な職種を経験後、2014年執行役員に就任。自らオンライン英会話を受講し、ビジネスで使える英語力を習得する。2015年にはタイへ赴任し、2017年帰国。以後、日本を拠点に社内外のリレーション構築・強化に努める。
坪内 俊一
株式会社レアジョブ 執行役員
1981年東京都出身。2007年、Boston Consulting Group入社。国内外のトップ企業への経営戦略立案・実行を支援。2014年にはLondon Business SchoolにてMBAを取得。ビジネスにおける異文化理解やダイバーシティの重要性を実感した。その後、エムスリーを経て2019年レアジョブに入社。経営企画・広報を管掌し、グローバルリーダー育成事業の事業開発も担当。