2018.02.28

これからの時代、英語をしゃべらなくていいわけがない

オンライン英会話で、学んだ知識を“アクティベイト”する

教務部グローバル教育委員会主任 金沢雅人さん、英語科教諭 町田真彩子さん (豊島岡女子学園中学校・高等学校)
Pocket

2017年度から、中学3年生のカリキュラムにオンライン英会話を取り入れた豊島岡女子学園中学校・高等学校。これまでのグループ英会話に加え、教科書準拠の「NEW TREASURE Online Speaking」使用したマンツーマンのレッスンを、年10回実施しています。
この日お会いしたのは、オンライン英会話導入に際し中心的な役割を担われた教務部グローバル教育委員会主任の金沢雅人先生と、英語科教諭の町田真彩子先生です。オンライン英会話を授業に取り入れた経緯や、英語教育に対するお二人の思い、生徒さんの様子などについてお話をお聞きしました。

インプットに対しアウトプットの量が不足していた

金沢先生 以前から教科書などで覚えた文法や語彙を“アクティベイト”させたいという思いは持っていました。言い換えるならば、知識を「実践で使える」ようにしたいと考えていたんです。そのためにはインプットだけでなく、「話す」「書く」といったアウトプットも必須なのですが、従来の授業ではその時間が足りていませんでした。

町田先生 当校の英語の授業は、教科書にそって知識を学ぶ授業と、文法の授業、会話の3種類があるのですが、会話の授業は中学3年生で週に1コマ、しかもクラス単位での授業ですから、やはりインプットの量に対してアウトプットの量は少なかったと言えますね。

アウトプットの機会として オンライン英会話を導入

金沢先生 たくさんのネイティブ教員がいれば、学校がマンツーマン英会話を提供することもできるのかもしれませんが、現状でそれはどう考えても不可能。だったら外部の力をお借りしようということで思い付いたのが、以前から話を聞いていたオンライン英会話でした。これからの英語教育は、アウトソーシングをどれくらい活用するのかがポイントとなるでしょう。授業もカリキュラムも学校内で完結させる必要があるのか、それが本当に生徒のためになるのか、という視点も必要ではないでしょうか。

もちろん、会話の練習は自宅学習で行えばいいという意見もあるでしょうが、それだとどうしてもやる子とやらない子の差がでてきてしまう。学校側から生徒に対して「こういう方法もあるよ」と提示するという意味でも、授業として導入することに意義があると思うんです。

他教科教員の意見も導入の後押しに


町田先生 ただ、実際にオンライン英会話を取り入れるまでには、いくつかの “ハードル”がありました。 ひとつは、ネット環境。何度かトライアルを行ったところ、タブレットと無線LANの組み合わせではなく、ノートPCと有線LANの方がつながりやすい、という結果になり、現在は20人前後であれば、ほぼ安定した状態で同時接続できるようになっています。

もうひとつは、時間割の中にどうやってオンライン英会話を組み込むか、という問題だったのですが、これはクラスを2つのグループに分けて、それぞれのグループがこれまでのクラス単位の英会話とオンライン英会話を交互に行うことでなんとかクリアに。こう話してしまうと簡単ですが、この案を思いつくまでが本当に大変だったんです(笑)。

あとは導入決定前には生徒にモニターを行っただけでなく、「私たちがやりたいのはこういうことです」ということを知ってもらうために、英語科の教員全員と他教科の教員合わせて20名にも実際にレッスンを受けてもらいました。もちろん色々な意見は出ましたが全般的には前向きな意見が多くて、中でも理数系の科目の先生が「論文も英語で書くのが当たり前の時代だから」と言って後押しして下さったことが心強かったですね。

多読と組み合わせて 授業時間を有効活用


町田先生 現在の授業は、50分の授業のうち、最初の10分がパソコン立ち上げなどの準備、その後25分間がレッスン、残りの15分間ではレッスンの感想を「振り返りシート」に記入、という流れです。時間があまった生徒は、Scholastic社のプログラム“Literacy Pro Library”を利用した多読学習を行っています。

教材は教科書(NEW TREASURE)に準拠したものを使いながら、1年前の内容を復習しています。今の時点で中3は高1レベルの内容を学習していますから、オンライン英会話は中2から中3で勉強した範囲、という感じ。それでもいざ話すとなると、なかなか言葉は出て来ないものです。例えば、float(浮き輪)という単語がわからなければ“donuts”、“swimming”といった言葉を使って、相手に尋ねればいい。でも、それが難しいんです。間違えてはいけない、という気持ちが邪魔をしてしまうのかもしれませんね。

金沢先生 会話では覚えた知識をただそのまま吐き出すのではなく、相手の言葉や場の状況に合わせて内容を変化させるスキルが必要です。相手に自分の分からないことを質問する、というのも一つのスキルですが、こういった力は実際の会話を通じてしか鍛えられないものなんですよね。生徒もそのことは少しずつ分かって来ているようで、最近は型通りの会話ではなく、自分なりのバリエーション付けた言葉で話そうとしている様子も、見受けられます。

楽しさを見出し 心理的バリアが取れてきた


金沢先生 いつもレッスン前半は静かですが、後半のフリートークの時間になるとワイワイしてくる(笑)。女性講師との会話は、ものすごく盛り上がるみたいです。マンツーマンのやり取りに苦労している一方で、英語を話す楽しさも見出してくれたのは嬉しいですね。中学3年生と言えば思春期真っ只中で、日本語でも大人と話すのは難しい年頃ですが、英語だとボキャブラリーも限られているので、かえって話しやすいのでしょう。

町田先生 初めは「言葉に詰まったときの沈黙がイヤだ」と言っている生徒もいましたが、今はだいぶ慣れて、自分のペースで答えられるようになってきています。先日は「先生に修学旅行の話をしたい」と言って、20分近くフリートークを楽しんだ生徒もいましたし、夏休みのカナダ研修以降、楽しそうに話すようになった生徒もいますね。実際生徒たちにオンライン英会話をやらせてみる前は心配だったのですが、私たちが思うよりも、生徒は楽しんでいるようです。

金沢先生 英語を話すことへの心理的バリアが少しずつなくなってきたことは収獲だと思います。フィリピン人講師は、やさしい雰囲気の人が多く、親しみやすいですね。話すのが苦手な生徒に対しても辛抱強く、手を変え品を変え働きかけてくれるのでありがたいです。

敢えて予習はさせない。下準備なしで話す力をつけるために。

町田先生 今のところ、授業前の予習は、敢えてさせていません。先に教材を見せると、真面目な生徒ほど文法問題の答えを全部書き込んでしまうんです。気持ちはよく分かるけれども、事前に答えを書いてしまったらただの読む練習になってしまうよね、それでは会話の練習にはならないよね、と伝えています。

金沢先生 発話のきっかけ作りという意味で、「今日のトピックはこんな感じで、こういうボキャブラリーが役立つよ」というヒントを与えるのはいいかもしれませんが、そのヒントもどの程度与えるかは、非常に悩むところですね。復習についても、今は「振り返りシート」を個々で記入するだけなのですが、いずれはこれもオンラインで作成し、みんなで共有できるようにするのも一つの方法かもしれませんね。

正直なところ、うらやましい!

町田先生 今回の導入にあたって学校内で「なんて良い時代だ!」という話をしていたんです。英語学習のバリエーションが、私たちの時とは全然違いますから。

金沢先生 正直、子どものころからこんなサービスがあって、うらやましいです(笑)世の中も変化していて、教育も変わることが必然になっています。生徒達には存分にこの機会を活かしてほしいですね。

教務部グローバル教育委員会主任 金沢雅人さん、英語科教諭 町田真彩子さんのジャンル